「プルーン研究と宇宙日本食」

「プルーン研究と宇宙日本食」 農学博士 伊神孝生先生

福島県食育協会令和6年度年度始まりにあたり、プルーンの研究と宇宙日本食の接点、背景などを少しご紹介させていただこうと思っています。

プルーンは抗酸化作用や便通改善などでよく知られたフルーツですが、これらの機能性を長年研究してきました。

その中で、宇宙食研究会の先生と知り合う機会を得ました。

この先生は、宇宙航空研究開発機構JAXA に所属し、宇宙飛行士と交信をとりながら、地上から国際宇宙ステーションにいる宇宙飛行士の健康管理を行っている先生です。

その方とのお話の中で、「今、求められている宇宙食とはどんなものか」という話題になりました。

その時の先生のご意見は3つあったのですが、まず第1に抗酸化力の高い宇宙食を求めているとのことでした。

今まで宇宙食というと、宇宙飛行士の栄養ということを中心に考えられてきましたが、抗酸化力という機能性に関してはあまり着目されていなかったのです。実は、宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は宇宙放射線をたくさん浴びるそうです。

どれくらい浴びるかというと、宇宙ステーションに1日滞在するだけで、地上での半年分に相当する放射線量を浴びるそうです。

このため、宇宙飛行士の体内では活性酸素が発生しやすい環境となります。

皆さんご存じのように、過剰な活性酸素は、いろいろな部位を傷つけ、高血圧やがんのもとになるような悪さをします。このため、過剰な活性酸素を消去する抗酸化力の高い宇宙食が欲しいとのことでした。

それを聞いた時、抗酸化力が高いプルーン、特に私たちが研究した電子スピン共鳴装置を用いた活性酸素除去能の高さと、ネズミを使った体内の活性酸素除去作用は宇宙食として、今求められている食品ではないかと感じました。

第2のご意見は、食物繊維の多い食品が欲しいということでした。

どうしても宇宙飛行士は限られた空間であまり運動もできないため、便秘になりやすいということでした。

これも私たちの研究で、ペクチンという水溶性の食物繊維やソルビトールという糖アルコールを豊富に含むことが分かったプルーンは、便秘予防に効果が認められ、宇宙食としてこの点でも求められているものと感じました。

第3に、先生からのご意見にこんなことがありました。

宇宙飛行士さんは尿路感染症などの泌尿器系の病気になりやすいということでした。

私たちは、尿意をもよおすとトイレに行きます。

この尿意は、膀胱にコップ1杯分ほどの尿が溜まると、その重さというか圧力が、シグナルとして脳に伝わることにより尿意を感じ、トイレに行くという行動につながります。

しかしながら、宇宙ステーションは無重力の空間です。

つまり膀胱にいくら尿が溜まっても重力というか圧力がかからないため、膀胱がいっぱいになりましたというシグナルが脳に伝わりにくいのです。

このため宇宙ステーションにいる宇宙飛行士は知らず知らずのうちに、おしっこを我慢しているという状況が続き、尿路感染症などの病気になりがちだということのようです。

しかし、このお話を聞いて、ますますプルーンは宇宙食として求められていると感じました。

少し専門的になりますが、私たちの研究で、プルーンには「キナ酸」という有機酸がたくさんあることがわかりました。

このキナ酸は尿を酸性化することで尿路疾患の予防に良いということが知られていたからです。また抗菌物質も多いため、この条件にもプルーンはぴったりだなと思いました。

これらの研究の結果、予想もしていなかった宇宙食につながったわけです。

研究の世界は、いろいろなところと繋がり、とても面白い世界です。

しかし、自然の食べ物にはまだまだ解明されていない素晴らしい能力が沢山あります。食育はこうした食べ物を大切にする活動でもあると実感します。

以上